第2本目:「文化祭とクラスの分岐点」
起:文化祭の準備
高校2年生の山本陽菜は、普通の女子高生だ。彼女は目立つタイプではないが、クラスメイトの話を聞くのが得意で、誰からも親しまれる存在だった。今年の文化祭では、陽菜のクラスは「お化け屋敷」を企画しており、陽菜は装飾チームのリーダーを任されていた。
しかし、文化祭の準備は最初から波乱の連続だった。クラス全員がやる気に満ちていたわけではなく、何人かは「お化け屋敷なんて面白くない」「他のクラスと同じじゃん」と不満を漏らしていた。それを見た陽菜は、自分がリーダーとしてクラスをまとめなければいけないと感じた。
「じゃあ、装飾のテーマをもっと面白くしようよ!廃病院みたいにして、ストーリー仕立てにするのはどう?」と提案してみたものの、「それ、作るの大変じゃない?」という冷ややかな反応も返ってきた。
陽菜は、自分のアイデアを通すためにはどうしたらいいのか分からず、少し落ち込んだ。しかし、「みんなで楽しい文化祭にしたい」という気持ちだけは揺るがなかった。
承:衝突ときっかけ
文化祭の準備が進む中、ついにクラスの意見が対立する場面が訪れた。一部の生徒たちは「簡単な装飾で済ませて、楽にやりたい」と言い出し、他の生徒たちは「手間をかけてでも本格的なお化け屋敷にしたい」と主張した。
陽菜は両方の意見を聞きながら、クラス全員が納得するような折衷案を考えようとしたが、状況は一向に改善しなかった。
その夜、陽菜は家で一人、ノートに装飾のアイデアを何度も書き直しながら考え込んでいた。そこで、ふと祖母の言葉を思い出した。
「人を動かすには、自分がまず動かなきゃね。」
翌日、陽菜は装飾の簡単な試作品を一人で作ってクラスに持ち込んだ。ダンボールで作った廃病院の窓枠や、赤いペンキで書かれた「HELP」の文字。完成度は高くなかったが、陽菜の熱意が伝わったのか、少しずつ周囲が協力し始めた。
「これならできそうじゃない?」
「やっぱりストーリー仕立て、面白そうかも。」
クラスの雰囲気が少しずつ変わり始めた。
転:一致団結の瞬間
文化祭まで残り1週間。陽菜のクラスはやっと一丸となり、装飾や演出に取り組むようになった。休み時間にはみんなで小道具を作り、放課後は体育館でお化け屋敷のリハーサルを行った。
最初はやる気のなかった生徒たちも、完成に近づくにつれて「ここはもっと怖くしよう」「こっちの演出がいい」と積極的にアイデアを出すようになっていった。
「陽菜ちゃん、リーダーとして頑張ったよね。」ある女子が声をかけてくれたとき、陽菜は少し照れくさそうに笑った。「みんなが手伝ってくれたからだよ。」
文化祭当日、クラスの「廃病院のお化け屋敷」は大盛況だった。泣き叫ぶお客さんもいれば、「こんな本格的だと思わなかった」と感動する人もいた。クラス全員が達成感を味わい、「やっぱりやってよかった」と声を揃えた。
結:クラスの絆
文化祭が終わった後、陽菜はクラスメイトからこんな言葉をもらった。
「陽菜がリーダーじゃなかったら、こんなにうまくいかなかったと思うよ。」
「ありがとうね、陽菜ちゃん。」
陽菜は、「クラス全員が楽しめたなら、それでいいんだ」と心の中で思った。そして、この経験を通じて、「自分から行動すれば、人を動かせる」ということを実感した。
その後、クラスの雰囲気は格段に良くなり、陽菜自身も前より自信を持てるようになった。文化祭という一つの出来事が、彼女にとってもクラスにとっても大切な分岐点になったのだ。
ー完ー