—第3本目:「放課後の図書館で見つけた秘密」
—起:静かな放課後藤沢健太、高校1年生。彼は人前に出るのが苦手で、いつも一人で過ごすことが多いタイプだった。休み時間には教室の片隅で読書をし、放課後は学校の図書館で静かに過ごすのが日課だった。健太にとって、図書館は唯一安心できる場所だった。小さな町にあるその図書館は、古い本がぎっしりと詰まった棚と、夕方の柔らかい日差しが差し込む窓が特徴的で、まるで時間が止まったかのような空間だった。そんなある日、健太がお気に入りの窓際の席に座り、いつものように本を読んでいると、棚の陰から誰かが彼をじっと見ている視線を感じた。ふと顔を上げると、同じクラスの佐々木紗枝が立っていた。「ここ、いつも来てるよね?」紗枝が話しかけてきた。彼女は明るくて活発なタイプで、クラスの中心的な存在だったため、健太は驚いて答えられなかった。「……うん。」やっとのことで答えた健太に、紗枝はにっこりと笑った。「私も本が好きなんだ。一緒にいてもいい?」—承:隠された「特別な本」それ以来、健太と紗枝は放課後に図書館で一緒に過ごすようになった。最初はぎこちなかったが、紗枝の人懐っこさに健太も少しずつ心を開いていった。二人は好きな本の話をしたり、学校生活の愚痴を言い合ったりしながら、静かな時間を共有していた。ある日、紗枝がふと、図書館の一番奥にある古い棚を指さした。「あの棚、何か特別な本が隠れてる気がしない?」紗枝の提案に、健太は少し興味を持った。あの棚は、他の生徒がほとんど立ち入らない場所で、ずっと放置されているように見えた。二人で棚を探っていると、埃をかぶった一冊の本を見つけた。タイトルは『時間の秘密』。手書きのような装丁で、見たこともない作者名が書かれていた。「これ……何だろう?」紗枝がそっと開くと、本には不思議な文章が書かれていた。「この本を開いた者よ、時の流れを紡ぐ旅へようこそ。」—転:不思議な体験それから数日間、二人は放課後の時間を『時間の秘密』を読み解くことに費やした。本には、昔の街並みや風景を描いた絵、そしてそれにまつわる短い物語が綴られていた。読み進めるうちに、二人は奇妙な感覚を覚えるようになった。本に描かれている情景が、まるで自分たちの目の前に現れるように感じられたのだ。ある日、健太が本の中の「学校の裏庭」のページを指さした瞬間、窓の外にある学校の裏庭が、まるで違う時代に変わったように見えた。草花が生い茂り、古びたベンチが佇むその風景は、どこかノスタルジックで、現代の景色とは違っていた。「これって……本当に過去の光景なのかな?」紗枝が驚きながらつぶやいた。その後も二人は、放課後の図書館でその本を読み進めるたびに、小さな「時の旅」を体験するようになった。本に描かれる場所が現実の風景と交差し、不思議な時間が二人を包み込む。—結:未来への手がかりある日、『時間の秘密』の最後のページをめくると、そこにはこう書かれていた。「時の流れは止まることなく進む。だが、未来を紡ぐのは、今ここにいる君たち自身だ。」その言葉を見た二人は、それぞれが抱えていた悩みを思い出した。健太は自分に自信が持てず、何を目指せばいいのか分からない日々を過ごしていた。一方で、紗枝は明るく振る舞う裏で、自分の進路や将来への不安を隠していた。「私たちが未来を作る……か。」紗枝がつぶやいた。健太はその言葉に勇気をもらい、自分も何かを始めなければいけないと思った。その日以来、『時間の秘密』は二人の手から離れ、図書館の奥の棚に戻された。しかし、それは二人にとって、新しい一歩を踏み出すための大切なきっかけとなった。健太は、初めてクラスの活動に自ら手を挙げ、周囲と積極的に関わるようになった。一方、紗枝も「無理をしない自分」でいられるよう心がけるようになった。放課後の図書館は、相変わらず静かだが、二人にとってその場所は、未来への扉を開く特別な場所となったのだった。
ー完ー